大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和32年(ワ)10050号 判決

原告 保坂徳一郎

右訴訟代理人弁護士 広瀬武文

被告 安西慶江

外五名

以上被告六名訴訟代理人弁護士 小川誉

被告 折原栄二

右訴訟代理人弁護士 大森正樹

主文

一、被告安西慶江、同立花房子、同小泉美津子、同安西利江、同安西康子、同安西孝之は原告に対し、別紙第二目録記載の建物を収去して、別紙第一目録記載(一)(二)の土地の明渡をせよ。

二、被告安西慶江、同立花房子、同小泉美津子、同安西利江、同安西康子、同安西孝之は各自原告に対し、昭和三一年七月二〇日から右別紙第一目録記載(一)(二)の土地の明渡ずみに至るまで一ヵ月金三、七六二円の割合による金員の支払をせよ。

三、被告折原栄二は原告に対し、別紙第三目録記載の建物を収去して、別紙第一目録記載(二)の土地の明渡をせよ。

四、原告その余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は被告等の負担とする。

六、この判決は、原告において、被告折原栄二を除くその余の被告等に対して各金五〇、〇〇〇円宛、被告折原栄二に対して金三〇〇、〇〇円の担保を供するときは、それぞれ仮に執行することができる。

被告折原栄二を除くその余の被告等が各金一〇〇、〇〇〇円宛、被告折原栄二が金六〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、それぞれ右仮執行を免れることができる。

事実

≪省略≫

理由

一、原告が、昭和一六年四月頃訴外山洋電気株式会社に対し、その所有にかかる東京都豊島区西巣鴨一丁目二、九一八番地の一宅地一、九七七坪五合一勺のうち一〇〇五坪を、普通建物所有の目的をもつて、期間二〇年の約で賃貸したこと、右訴外会社が、昭和二三年四月二九日原告の承諾を得て、右借地のうち二一四坪二合五勺の賃借権を、訴外安西伊之助に譲渡し、同日右安西伊之助が右土地について前記賃貸借契約における賃借人の地位を承継したこと、原告が東京都知事より、東京復興都市計画の土地区画整理のため、前記安西伊之助に対する賃貸土地のうち約四〇坪については昭和二四年一一月四日に別紙第一目録記載(二)の土地を、同約一七坪については昭和二五年九月一二日に別紙第一目録記載(一)の土地を、特別都市計画法第一三条の換地予定地として、それぞれ指定する旨の通知を受けたこと、以上の事実はすべて当事者間に争がない。

しからば、特別都市計画法第一四条第一項の規定に基き、右換地予定地の指定通知の翌日より、別紙第一目録記載(一)(二)の土地について、原告は所有権と同じ内容の、また、安西伊之助は従前の土地に対する前記賃借権と同じ内容の使用収益権をそれぞれ取得したものというべきところ、昭和三〇年四月一日土地区画整理法施行法の施行によつて特別都市計画法が廃止された後は、右施行法第六条の規定に基き右換地予定地は土地区画整理法第九八条による仮換地とみなされ、同法第九九条第一項の規定に基き、別紙第一目録記載(一)(二)の土地について、原告は所有権と同じ内容の、また安西伊之助は後記のとおり当時死亡していたので、その共同相続人である被告折原を除くその余の被告等が従前の土地に対する賃借権と同じ内容の使用収益権を取得したものというべきである。

二、そこで、原告の無断転貸を理由とする賃貸借契約解除の主張について判断するに、安西伊之助が被告折原栄二に対し別紙第一目録記載(二)の土地を転貸したことは当事者間に争がない。

被告等は、右転貸について安西伊之助は昭和二三年五月頃予め原告の代理人訴外山崎直次郎の承諾を得た旨抗弁する。そして、証人尾崎茂作の証言及び被告折原の本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる乙第二四号証、証人尾崎茂作の証言並びに被告折原の本人尋問の結果によれば、訴外山崎直次郎は昭和二三年五月頃、安西伊之助が原告より賃借していた仮換地指定前の東京都豊島区西巣鴨一丁目二、九一八番地の一のうち四〇坪を被告折原に転貸するに際し、これに承諾を与えたことが認められる。しかしながら、右山崎直次郎が、右仮換地指定前の土地もしくは別紙第一目録記載(二)の土地の転貸を承諾する権限を有していたことについては、これを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、原告本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一五号証、乙第一、二号証に証人西邨謹太郎の証言並びに原告本人尋問の結果を綜合すると、山崎直次郎は原告より前記土地については地代取立の権限を附与されていたに止り、転貸を承諾する権限を有しなかつたこと、また原告自身も安西伊之助の転貸に承諾を与えなかつたことが認められるから、安西伊之助の被告折原に対する転貸は無断転貸に帰し、被告等の抗弁は採用するに由ない。

ところで、安西伊之助が昭和三〇年二月二五日死亡したこと、同日被告安西慶江、同立花房子、同小泉美津子がいずれも右安西伊之助の実子として各四分の一の持分で、また、被告安西利江、同安西康子、同安西孝之がいずれも安西伊之助の養子であつた亡訴外安西亮の実子として各一二分の一の持分で共同相続し、別紙第二目録記載の建物の所有権と別紙第一目録記載(一)(二)の土地の賃貸借契約における賃借人の地位を承継したこと、原告が被告安西慶江に対し昭和三一年七月一九日到達の書面をもつて前記無断転貸を理由として本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたこと、当時被告安西慶江が被告安西利江、同安西康子、同安西孝之の代理人であつたことは当事者間に争がない。そして、成立に争がない甲第七号証、第一〇、一一号証、第一四号証、被告折原の本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる丙第一四、一五号証に証人山崎志も同西邨清同西邨謹太郎の各証言並びに被告安西慶江の本人尋問の結果を綜合すると、被告立花房子同小泉美津子の両名は安西伊之助の死亡前より他に嫁し、別紙第二目録記載の建物には安西伊之助の長女(同人に男の実子はない)である被告安西慶江がその子供である被告安西利江、同安西康子、同安西孝之と共に居住し、安西伊之助死亡後の原告に対する地代の支払、被告折原からの地代の領収等別紙第一目録記載(一)(二)の賃借土地に関する事務の一切は被告安西慶江において処理し、被告立花房子、同小泉美津子の両名もこれを当然のこととし黙過し異議を挿まなかつたことが認められる。してみれば、被告立花房子、同小泉美津子の両名は、共同賃借人としての権利義務の行使の一切を被告安西慶江に委任していたとみるのが相当であつて、被告安西慶江は右被告両名の代理人として地主からの契約解除の意思表示を受領する権限を有していたものというべきである。

しからば、原告と被告折原を除くその余の被告等との間の前記賃貸借契約は昭和三一年七月一九日をもつて適法に解除せられたものというべく、同被告等が別紙第一目録記載(一)(二)の地上に別紙第二目録記載の建物を共有していること前記のとおりであるから、同被告等は原告に対し、賃貸借契約の終了に基き、右建物を収去して別紙第一目録記載(一)(二)の土地を明渡す義務がある。

三、次に原告の被告折原を除くその余の被告等に対する延滞賃料及び損害金の請求について判断するに、別紙第一目録記載(一)(二)の土地の賃料が原告と安西伊之助との合意により昭和二八年七月一日以降月額金二、四八〇円と定められたこと、被告折原を除くその余の被告等が昭和三〇年七月分より昭和三一年四月分までの賃料を支払わなかつたことは当事者間に争がない。被告等は、被告安西慶江が昭和三〇年七月分乃至昭和三一年七月分までの本件土地の賃料合計金三二、二四〇円を供託している旨主張し、供託の事実については当事者間に争がなく、成立に争のない乙第一五号証に被告安西慶江本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によれば、被告安西慶江は昭和三一年七月頃原告の代理人西邨謹太郎に対し右賃料を提供したがその受領を拒まれたので前記のとおり供託したことが窺われるから、被告折原を除くその余の被告等の原告に対する昭和三〇年七月一日より昭和三一年七月一九日までの賃料債務合計金三一、二八〇円は右供託により消滅したものというべく、同被告等にこれが支払の義務はない。

しかしながら、前記のとおり本件賃貸借契約は昭和三一年七月一九日解除せられ、被告折原を除くその余の被告等は原告に対し別紙第一目録記載(一)(二)の土地の明渡義務があるところ、右明渡義務の履行遅滞により原告をして右土地に対する使用収益を得ざらしめて統制賃料相当の損害を蒙らせているものというべきである。しかして右土地の統制賃料が昭和三一年四月一日から月額金三、七六二円であることは当事者に争がないから、同被告等は共同賃借人として各自原告に対し本件賃貸借契約解除の翌日である昭和三一年七月二〇日から右土地明渡ずみに至るまで一ヶ月金三、七六二円の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

四、最後に、原告の被告折原に対する請求について判断するに、被告折原が別紙第一目録記載(二)の地上に別紙第三目録記載の建物を所有して右土地を占有していることは当事者間に争がなく原告が右土地について土地区画整理法第九九条第一項の規定に基いて所有権と同じ内容の使用収益権を有することは先に判示したとおりである。しかしながら、被告折原は前記認定のとおり原告の承諾なく右土地を安西伊之助より転借し占有するに至つたものであるから、原告に対抗し得ないこというまでもない。

よつて同被告は原告に対し、別紙第三目録記載の建物を収去し別紙第一目録記載(二)の土地を明渡す義務がある。

五、以上の理由により、原告の本訴請求のうち、被告折原を除くその余の被告等に対して延滞賃料の支払を求める部分は失当として棄却を免れないが、その余は正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条第九三条を、仮執行について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決まる。

(裁判長裁判官 中田秀慧 裁判官 柴田久雄 古沢博)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例